奇しくもコロナ禍でDXが後押しされているが、果たして本当の意味でのDXはできているのか?トリドールの考えるDXとは何か?
今回は、CIO 兼 BT本部長の磯村さんにお話しを伺いました。

磯村 康典
株式会社トリドールホールディングス 執行役員CIO兼BT本部長
株式会社トリドールビジネスソリューションズ 代表取締役社長
1993年、富士通へ入社し、システムエンジニアとしてのキャリアを開始。
2000年、ネットショッピング黎明期にソフトバンクへ入社し、イー・ショッピング・ブックス(現・セブンネットショッピング)、イトーヨーカドー、日テレ7のECシステム開発、運用責任者を務める。2008年、ガルフネット社 執行役員へ就任し、飲食業向けITシステム・アウトソーシングサービスの開発責任者、営業責任者を歴任。
2012年、Oakキャピタル 執行役員へ就任し、事業投資先であるベーカリーやFMラジオ放送局等の代表取締役を務めながらハンズオンによる経営再建に従事。2019年、株式会社トリドールホールディングス 執行役員CIOへ着任し、現職に至る。
休日の過ごし方は、ランニング、BayStars観戦、F1観戦、読書、旨い店巡り。
そもそもDXって何のためにやってるの?

古里 栞
最近、トリドールのニュースリリースでDX推進への取り組みの記事が出ましたが、世間でもDX推進という言葉が多く飛び交ってます。

磯村 康典
そうですね。

古里 栞
今日は、トリドールのDX推進についてお話を伺っていきたいのですが、まずは、“DX推進”そのものについてお話を伺っていいですか?

磯村 康典
はい。まずDXはデジタルトランスフォーメーションの略ですが、もともと、ビジネストランスフォーメーションっていう言葉があるんです。

古里 栞
はい。

磯村 康典
業務改善や新しいビジネスの創出などに対し、デジタル技術を活用しながらビジネストランスフォーメーションを行うのがデジタルトランスフォーメーションなんです。

古里 栞
つまりDXとは、アプリなどのツールを使ってビジネストランスフォーメーションを行うイメージですか?

磯村 康典
そうです。デジタルありきではないんです。
逆に、デジタル技術の活用なしにビジネストランスフォーメーションもあり得ない。

古里 栞
なるほど。少し話は変わりますが、磯村さんは以前、DX推進には経済産業省も危機感を持っているとお話をされていましたよね?

磯村 康典
そうです。現在多くの日本企業で、老朽化したITシステムが依然として使い続けられていて、それによって発生するコストが経済界全体の問題となっているんです。
そのため、政府は今回すべての企業を対象にDXを勧めているんです。

古里 栞
なるほど。それだけ聞くと、"とりあえずデジタル"という印象も受けなくはないですが。

磯村 康典
だから“とりあえずデジタル”という企業や散発的にデジタルを活用している企業もまだまだ多いです。

古里 栞
トリドールもDX推進の目的はビジネストランスフォーメーションであることを押さえた上で、取り組んでいきたいですね。

磯村 康典
そうですね。やはりビジョンなくしてDX推進はできません。トリドールのDX推進についても、まずは、ビジネストランスフォーメーションを行うというイメージで見てもらった方が全体像が分かりやすいと思います。

古里 栞
じゃああまりDXって囃し立てないほうがいいですね(笑)。

磯村 康典
そうそう(笑)。だから、HDの本部もBT本部(ビジネストランスフォーメーション本部)という名前にしてるんです。

古里 栞
IT本部からBT本部に名称変更されたのも、納得しました。

磯村 康典
下手にデジタルというと、「AIを使って」、「IoTを使って」などと、目的がずれてきちゃう。“とりあえずデジタル”っていうのは避けたかった。

古里 栞
あくまでも、目的は業務改善や新規ビジネスの創出ですものね。

磯村 康典
その通り。
トリドールのビジネストランスフォーメーションが目指すものとは。

古里 栞
では、トリドールのDX推進も、目的はビジネストランスフォーメーションですよね?具体的にはどういったビジョンがあるのでしょうか?

磯村 康典
大きくいうと、業務改善と新規ビジネスの創出です。具体的には、こちらのDX推進プロジェクトにも記載しています。

DX推進プロジェクト(一部抜粋)
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磯村 康典
例えば中食ニーズへの取り組みは、中期経営計画でも掲げている通りで、それを実現するためのプラットフォームをBT本部で整えます。

古里 栞
はい。

磯村 康典
あとは、既存ビジネスモデルの深化として、サプライチェーンプラットフォームの強化、人材開発プラットフォームの構築、グローバルプラットフォームの構築がありますが、これらも経営戦略と合致しているので、ビジネス改革に基づいたデジタル改革と認識してもらえればと思います。

古里 栞
なるほど。確かにこの内容だとデジタルなしにはビジネストランスフォーメーションは難しいですね。
DXビジョンとDXシナリオ。IT環境を更地にし、耕す。

古里 栞
もう構築段階には入っているのでしょうか。

磯村 康典
現状のITはいくつか課題を抱えているので、それらの解決に一番最初に取り掛からなければいけません。

古里 栞
それがDXビジョンですか?

DXビジョン 2022
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磯村 康典
そうです。そしてDXビジョンを実現するための具体的な内容が、DXシナリオです。

DX推進シナリオ
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古里 栞
わかりやすいです。でも、そもそもどうしてこのような状況になっていたのでしょうか。

磯村 康典
トリドールに限らず、長くシステムを使っているとそのシステムに社員のいろんな声を反映させ改修を重ねていくことが多いんです。そうすると、だんだんわけがわからないシステムになってくるんですよね。

古里 栞
つぎはぎだらけの状態ですね。

磯村 康典
その通り。このつぎはぎを何度も重ねていくと、全体が分かる人がいなくなってしまうので逆に使い勝手が悪くなってしまうんです。

古里 栞
その時は改善されても、人の入れ替わりやシステムのアップデートに対応できないなど、様々な問題を併発しそうですね。

磯村 康典
なので、今の状態をベースに新しいことを始めようとしてもコストも時間もかかって、クオリティもよくない。だったら、“根っこからやり直す”という判断に至りました。

古里 栞
なるほど。しかし、改めて見るとphase2の段階までかなりのスピード感で行われてきた感じがしますね。

磯村 康典
メンバーも含め、関係各所のみなさんにはかなり頑張っていただいたかと思います(笑)
でも、あくまでも新規ビジネスの創出や既存ビジネスの深化が目的なので、前段としてIT環境の刷新には早く取り組んでいかなければならなかったんです。
DXシナリオのphaseごとの動き。

古里 栞
まず、phase.0ではどのような取り組みを行ったのでしょうか?

磯村 康典
トリドールは、データセンターというコンピュータを預ける場所を借りていて、そこに自社で購入したサーバーを配置し、システムを動かしていたんです。

古里 栞
そこにどのような課題があったのでしょうか?

磯村 康典
会社の規模が大きくなるにつれ、サーバーのキャパが足りなくなるので、どんどん増やしていかないといけない。また、自社で機械を保有していると、壊れた際に対応しなければならない。そういった負担も増えていき、会社の成長に追い付いていない状態になっていたんです。

古里 栞
確かにコストがかかってるのに負担は大きそう。

磯村 康典
そのため、すべてのサーバーを捨てクラウドサービスを活用したというのが、phase.0からphase.1に取り組んだことです。

古里 栞
逆に今までクラウドを活用しなかった理由はあるんですか?

磯村 康典
クラウドに移行するのに躊躇う理由は主に二つあると思います。一つは、コストが高騰するという誤解、二つ目は、セキュリティに不安があるという誤解です。

古里 栞
実際にはそんなことは、ない?

磯村 康典
はい。ちゃんと理解しうまく取り組めば、実際はコストもかからないし、セキュリティも危険に晒されるリスクは少なくなります。

古里 栞
ここまではphase.1ですね。phase.2を見ると、IaaSからSaaS?大きな変化がありそうですね。

磯村 康典
そうです。Phase.2ではSaaSを積極的に活用していきます。
SaaS(Software as a Service)…これまでパッケージ製品として提供されていたソフトウェアを、インターネット経由でサービスとして提供・利用する形態のこと。
IaaS(Infrastructure as a Service)…情報システムの稼動に必要な仮想サーバをはじめとした機材やネットワークなどのインフラを、インターネット上のサービスとして提供する形態のこと。
他にも、PaaS(Platformas a Service)や、DaaS(Device as a Service)などがある。

磯村 康典
バックオフィスに関しては、世の中にいいものがたくさんあるのでそれらを活用していく方針にしています。

古里 栞
これまで行ってきた、トリドールオリジナルの改修はしないということですね。

磯村 康典
はい。トリドールが大事にしているのは、お店での手づくり・できたての美味しさや、オープンキッチンによるエンターテインメント性ですよね。会社の強みでもあるこの部分は、オリジナルできちんと考え、力を入れ、やっていくべきところだと思うんです。

古里 栞
はい。

磯村 康典
でも、バックオフィスに関してはできるだけ効率よく安定したもので運用していくべきだと思うので、いいものを組み合わせ活用していく方が、世の中の変化にもいち早く対応ができるので、自前のシステムからSaaSへ移行したいんです。

古里 栞
強みや個性を発揮する場所は、システムではない、ということですか?

磯村 康典
はい。これはトリドールに限ったことではないのですが、日本では、業務を変えないでシステムを変えるという傾向が強く、業務の改革や改善をしていないことが多かったんです。

古里 栞
興味深い話ですね。

磯村 康典
一方で、欧米では良いとされているシステムを選んだら、自分たちの業務をシステムに合わせて変えるんです。だから欧米のほうがデジタル技術の進化や世の中の変化に順応に対応でき、生産性が高いという傾向にあります。

古里 栞
欧米に先進的なイメージがあるのもそういった順応性の高さや変化を厭わないところにあるのかもしれませんね。

磯村 康典
日本がよく失われた20年と言われ、成長が止まってしまったというのは、本当の意味での改革ができていなかったからかもしれませんね。
DXの推進で、トリドールの強みをさらに強く。

古里 栞
やはり期待するのは新規ビジネスの中食ニーズへの取り組みですが、大きな動きとしてはタブレットPOSの導入でしょうか?

磯村 康典
そうですね。最近ではどのお店でも見かけるので目新しいものではないですが、トリドールではこのタブレットPOSが今後の取り組みの大きな土台になってくるので重要かつスピーディに進めています。

古里 栞
店舗数も多いので結構ヘビーな案件そうですが…

磯村 康典
現時点で約350店舗へのPOS導入が完了しています。(2020年1月20日時点)

古里 栞
早い!

磯村 康典
だって、このスピード感でないと終わらない・・・。2021年の3月末には丸亀製麺は全店導入完了予定です。メンバーにはかなり頑張ってもらいました(笑)。感謝しかないですね。

古里 栞
タブレットPOSの導入で今後期待できるバリューはどういったものでしょうか?

磯村 康典
店舗従業員の負担軽減やコスト削減が可能です。

古里 栞
具体的には?

磯村 康典
例えば、これまでのPOSは故障すると営業ができないなどの大きな影響がありましたが、タブレットであれば店舗に代替機を保管しているので、仮に故障したとしても運営に影響が出ません。

古里 栞
なるほど。しかもこれまでの大きいPOSからタブレットPOSに切り替わりレジ周りが整理されることで、油や水などの飛び散りによる機械の故障リスクも格段に減りますね。

磯村 康典
また、タッチの感度もいいので作業ストレスも減ります。

古里 栞
今はみんなスマホのタッチ感度に慣れていますもんね。

磯村 康典
タブレットはDaaS(レンタル)で中身の決済ソフトはSaaSなので、タブレットPOSの導入によって全体的にコストを大きく抑えられています。

古里 栞
今後は全業態へ導入予定ですか?

磯村 康典
はい。これまでは業態や店舗ごとにPOSを独自に操作していたので、展開するにもスピードがどうしても劣っていたのですが、タブレットPOSの導入によってクラウドとアプリが常に同期されるため、設定がずれることなくスピーディな導入が可能です。

古里 栞
まさしく業務改善に向けたデジタルの活用ですね。

磯村 康典
はい。タブレットPOSは目新しいものではないけれど、様々なシステムと連携しやすいのでトリドールグループの店舗数を鑑みると経済的インパクトはかなり大きいんです。

古里 栞
今後もビジョンの達成に向けたデジタルの活用が楽しみですね。

磯村 康典
店舗で負担になっている業務は、デジタルでまだまだ改善できる余地があります。ワークスケジュールを組むことや発注、棚卸業務など、大きな負担になっているものもデジタルの活用で刷新していきたいと考えているので今後に期待してほしいです。

古里 栞
負担となっている部分をデジタルによって軽減させ、本来の強みである手づくり・できたて、エンターテインメント性などを磨いていけば、個性を輝かせることにつながり、さらに会社は強くなりますね。

磯村 康典
サステナブルな取り組み、グローバル展開、そしてDXに注力している企業が今後も持続可能な企業として成長していくと思います。トリドールはすごい角度で成長しているので、バックオフィスが足かせにならないよう今後も積極的に取り組んでいきたいと思います。