飲食業界では“QSC”( Q:クオリティー(品質)、S:サービス(サービス)、C:クリンリネス(清潔さ)という言葉による指標が共通認識として使われることが多いですが、トリドールではQSCのほかにも、“Clean as you go”という標語を活用しながら日頃の衛生管理を推し進めています。
トリドールの衛生管理に対する考え方について、バックオフィスからサポートする店舗食品安全課/清掃整備改善PJリーダーの柏木さんにお話しを伺ってきました。
どうしても定着しなかったクレンリネスへの意識…

古里 栞
このコロナ禍で世間の衛生に対する意識はかなり変化してきていますよね。

柏木 章嘉
そうですね。テイクアウトの機会が増加する中でも、手づくり・できたてを強みとするトリドールでは、店舗での顧客体験というのがやっぱり重要です。
ですので、店舗での衛生面の徹底を継続するのはもちろん、これまで以上に強化していく必要があると感じています。

古里 栞
お客様に安心して召し上がっていただくための、いわば土台のようなものですものね。

柏木 章嘉
そうですね。

古里 栞
最近では、新たに“Clean as you go”という言葉とともに、衛生管理の徹底を推進しているかと思います。これまでの衛生管理との違いについてお伺いしたいのですが。

柏木 章嘉
そうですね。まず、“Clean as you go”は言ってしまえばただの標語です。“交通安全“と同じようなものなので、”Clean as you go“には、そのものの持つ意味しかありません。

古里 栞
ではどうして、”Clean as you go“という標語を新たに取り入れたのでしょうか?

柏木 章嘉
はい。QSCだけだとどうしても、“指標をクリアするためのもの“という認識が出てしまい、クレンリネスが根底の意識として定着しないという課題がありました。

古里 栞
クレンリネスの目的は別にあるのに…。

柏木 章嘉
まさに手段の目的化ですね。だから意識を定着させるための標語と、それに基づいた具体的な行動を示す必要があったんです。

古里 栞
なるほど。ただ、以前からも、言葉は違えど提唱はされてきたと思います。言葉を変えるだけで環境改善につなげるのは難しいと思いますが・・・。

柏木 章嘉
そうですね。ですので、今回はプロジェクト化し、体系立ててクレンリネスを強化していくという体制を取りました。
“共通の基礎”と、“個性の発揮”。

古里 栞
体系立ててということについて詳しく教えていただきたいのですが。

柏木 章嘉
まずはこちらの体系図を見てください。


古里 栞
この体系でいくと、QSCを含むそこから上が、個性の発揮としていますね。

柏木 章嘉
はい。まずは、共通の基礎を全店舗でしっかり整えてから、QSC、特にトリドールはQ(クオリティ)とS(サービス)に個性の発揮をしてもらいたい、と考えています。

古里 栞
なるほど。うどんの美味しさや、接客、いわゆるトリドールの強みですね。これらは共通の基礎を徹底してその上での発揮ということですね。

柏木 章嘉
おっしゃるとおりです。

古里 栞
新しい標語である“Clean as you go”は共通の基礎の部分に位置しているんですね。
では、改めて“Clean as you go”の考え方を伺ってもいいですか?

柏木 章嘉
まず、共通の基礎の下から説明していきますね。

柏木 章嘉
一番下に閉店/開店作業とありますが、全店舗足並み揃えて、朝の営業に入るためには、まず閉店作業をしっかり行うことが重要ですので、開店作業だけでなく、閉店作業も含んでいます。そして、開店後はオペレーションが中心になります。ここで大事なのは“汚さないオペレーション”です。

古里 栞
汚さないオペレーション?

柏木 章嘉
はい。自分の行く先はきれいにする、ということです。この動きが“Clean as you go”です。
汚さないということはリセットの必要もないので、閉店作業が楽になりますし、余計な仕事が減るのでよりお客様への対応に注力できます。
これが、“Clean as you go”の基本的な考え方です。

古里 栞
なるほど。ちなみに“Clean as you go”の行動指標などはあるのでしょうか?

柏木 章嘉
あります。ここでは、あえてNGな行動を指標にしています。


古里 栞
わかりやすいですね。NGな行動の中に普段無意識にやっているものがあれば、すぐに改善できそうです。

柏木 章嘉
また、これらの行動は今回新たに追加したものではなく、トリドールがずっと昔から推奨してきたことを、“Clean as you go”という標語に整理して入れているだけなので、受け入れるのに難しいことではないんですよね。

古里 栞
その通りですね。

柏木 章嘉
そして、その上にドライキッチン*、メンテナンス、フードセーフティと並びますが、お店がCleanな状態(床が水浸しでない、出汁や油がこぼれていない、等)であれば、ドライキッチンの運用が可能になり、ドライな状態であれば水に弱い電気機械類が壊れることも防げます。そうしてCleanな厨房で故障のない機器を使い正しい調理を行えば、フードセーフティを維持することができます。
*ドライキッチン(ドライ運用)…清掃時を除き、床を極力濡らさないように運営すること。床が乾燥していると有害細菌やカビの繁殖が防げることと、床からの跳ね水による食品や機器の汚染も防止できる。たとえば、釜の湯を床にまくと、うどんから溶け出た塩分とでんぷん質が床に残り細菌やカビの温床となる(熱殺菌できると誤解していることが多い)。機器にかかると塩分サビが出やすくなり故障の原因になる。など

古里 栞
なるほど。つながりがわかりやすいですね。

柏木 章嘉
そして、QS(C)で個性の発揮してもらうことで、ESやCSの向上、売上/利益の向上に繋がります。

古里 栞
極端にいうと、清掃方法や開店作業に個性は要らないんですね?

柏木 章嘉
はい。清掃や食品安全の基準は全店いや世界共通です。トリドールの強みは、クオリティやサービスで発揮するべきなんです。

古里 栞
体系立てたことで、クレンリネスやトリドールの強みなど、すべての関係性が見えて理解しやすく、さらにこれであれば意識しやすいです。

柏木 章嘉
クレンリネスはやって当たり前のことなんですが、当たり前のことを当たり前にやることは実はとても難しい。ではどうすればやれるようになるか、そう考えて体系化に至りました。

古里 栞
これがうまく機能することで大きな成果につながりますね。

柏木 章嘉
はい。クレンリネスの強化はもちろんですが、“Clean as you go”の考え方が浸透すれば、余計なリセットもいらなくなりますし、修繕コストもかからない。おまけに売上や利益につなげることができるので、このモデルが運用できたらかなりの強みになると思います。
衛生管理は決してチェックのためにしているわけではないという認識を全員が持つことができたら、会社の未来はもっとワクワクするものになると思います。
知ってもらう、使ってもらう。そのために。

古里 栞
体系立ててわかりやすくなりましたが…
ただ、ここからの動きもまだまだ大変ですよね?

柏木 章嘉
そうですね。まず、今はルールを決めるという動きから行っています。
そのためのマニュアルやガイドラインを作成中です。また、情報の取得ツールにまだばらつきがあるので、わかりやすく情報を取得できるようなデザインの整理からプロジェクトのメンバーで取り組んでいます。

古里 栞
伝えたい情報が伝わらないともったいないですものね。

柏木 章嘉
そのデザインしたものを順次お店にデリバリーしていくというのが来期の動きです。

古里 栞
ツールとしては店舗iPadなども活用していくのでしょうか?

柏木 章嘉
まだ決まっていませんが、営業部メンバーの使い勝手がいいもので検討しています。

古里 栞
そうですね。マニュアルも使ってもらわないと意味をなさないですものね。

柏木 章嘉
プロジェクトに携わっていて感じるのが、みんな忙しい中、営業だけでなく清掃まで一生懸命取り組んでくれているのに、その方法が正しく伝わっていない、ということです。決して、仕事をさぼっているというような状態ではないんですよ。

古里 栞
その原因はなんでしょうか?

柏木 章嘉
清掃方法が、エリアごとや店舗ごとに違ってきていて、口頭で人から人への伝達が多いのだと思います。つまり、マニュアルが活用されていないというのが現状です。

古里 栞
マニュアルだけでなく、伝達方法も慎重に検討する必要がありそうですね。

柏木 章嘉
また、店舗が欲しい情報と本社が発信している情報がずれていることがあるなと感じます。

古里 栞
情報のズレは速やかに対応していきたいですね。

柏木 章嘉
はい。そういった肌で感じてる部分も課題点として、今回のプロジェクトで是正し、いい方向に向かうようにしたいと思っています。

古里 栞
意識的課題は長期戦になると思いますが、全員でClean as you goの文化を醸成していきたいですね。
柏木さん、本日はありがとうございました。