㈱トリドールホールディングス常務取締役 兼 COO ㈱トリドールジャパン代表取締役 田中 公博
「2025年度に世界で6000店舗(国内2300店、海外3700店)、店舗合計売上5000億円」という大胆な目標を本気で目指すトリドールホールディングス。日本国内の市場に向けた戦略とはどのようなものなのでしょう? 常務取締役の田中さんに話を聞きました。
※2020年2月に取材した記事です。

「丸亀製麺」と「肉のヤマキ商店」の分社化が、次なる戦略のスタート地点

2019年11月の第2四半期決算説明でも、分社化の方針について触れていましたが、2020年4月についに丸亀製麺が分社化されましたね。「次のチャレンジに向けて動き出した」と捉えて良いのでしょうか?

その通りです。トリドールの成長を牽引してきた「丸亀製麺」と、昨年から店舗展開を本格化させた「肉のヤマキ商店」の2ブランドをホールディングス傘下の事業会社として分社化いたしました。

まず、丸亀製麺については、事業としての基礎がしっかり確立され、今もなお店舗数を増やして成長中なのですが、だからこそこのタイミングで独立させるべき、という判断をしました。どんなに好調な事業であっても組織が大きくなれば、意思決定スピードは遅くなります。ですから一つの事業として切り離すことにより、これまで以上に迅速にチャレンジをしていけるようになる。そう考えたことから分社化を決めた部分もあります。実はもっと大きな理由があってのことなのですが、それについては後でご説明します。

一方、「肉のヤマキ商店」は、創業してまだ間もないところではあるのですが、将来性について検討を重ねていった結果、「このブランドならば自走力を持って拡大していける」との認識で分社化を決めました。「豚屋とん一」や「長田本庄軒」など既存の国内ブランドも総じて安定した実績を上げているのですが、私たちとしては出来る限り早い段階で、「第二の丸亀」を確立したい、という考えがあります。ですから、これまでの実績も大切ですが、なにより重視しているのは「この先、成長していけるだけの確かな土台ができているかどうか」です。
10店舗だったものが50店舗になり、すぐに100店舗を目指していけるだけの地力をつけられるかどうかを見極めながら、分社化できるブランドが出てくれば、今後もこの戦略を続行したい。そう考えています。

「将来的な成長性」を判断するという面について、もう少し詳しく教えてください。

例えば、今まである程度順調に店舗数を拡大してきたものの、ここへきて出店が停滞しているブランドがあったとします。国内市場には超高齢化・少子化・人口減少という環境要因があるわけですから、単にそのせいで成長速度が遅くなっているだけなら問題はありません。でも、丸亀製麺や、他社が展開する外食ブランドの中にも、ネガティブな環境要因がありながらも成長し続けているブランドが存在するわけです。そもそも私たちが本来目指しているのは「お客様に幸せや喜びを味わっていただく」ことですし、その目標に向かって努力しているブランドは、国内市場の現実を前にしてもしっかりとお客様のハートを掴むことが可能なはずなんです。ですから、私たちとしても店舗数や売上といった数値データ以上に、「今このブランドのお店は、本当にお客様に満足していただくだけのバリューを提供できているのか」という点に目を配っています。

分社化を進める理由として、先ほど「意思決定をスムーズにしてビジネス全般のスピードを上げる」という経営判断についてお話をしましたが、他にも「より成長性のあるブランドを明らかにして、そこに経営リソースを有効的に投じることで、大きな目標を達成したい」という意向もあるんです。すべてのブランドがトリドールという組織を支えてくれているんだ、という認識は持っているものの、だからこそ「まだまだ伸びていく可能性があるのはどこなのか」を明確にしていきたいと思うのです。

早いタイミングで「第二の丸亀」を確立するとのことですが、その勝算はどうなんでしょう?

容易ではない、という気持ちはあります。たしかに丸亀製麺の躍進ぶりは、これまでマスコミでも頻繁に取り上げられるほどでしたが、私がトリドールに入社した2011年当時は合計で400店舗ほどでした。それが今や国内外で1000店舗以上展開するまでに成長したわけです。しかも、厳密に言えば現在の丸亀も国内に限定すれば、まだ1000店舗に到達していません。あれほど「急成長ブランド」として注目されてきた丸亀製麺でさえ、それだけの時間を要したわけですから、今後数年で名実ともに「第二の丸亀」を確立するのは非常に難しいと言えます。ただし、見方を変えれば我々トリドールには丸亀製麺という成功事例より培った知識や経験があるということ。しかもこのブランドさえも分社化してさらに伸ばそうとしている状況にあります。私たち全員が、丸亀で得た教訓を生かしながら、本気で「第二の柱」を生み出せると信じ、挑戦することができれば、不可能なことではないと私は考えます。

すべては、トリドールが「人材開発企業」として成長するための戦略

先ほど示していた「分社化を進めるもっと大きな理由」とは何なのですか?

社長の粟田が創業以来こだわり続けている部分、つまり「食」のビジネスはイコール「人材」のビジネスなんだという、当社の理念の根幹が関わってきます。丸亀製麺が急成長できた要因は数々あるのですが、やはり大きかったのは「手づくりのうどんを出きたてで提供し、お手頃な価格で多くのかたに食べていただきたい」という熱意を持った「人」たちの存在です。彼らがぐいぐいと仲間を引っ張り、オーナーシップをもって改善を重ねた結果、国内外で1000店舗以上展開という異例の成長を実現したと捉えているんです。もちろん、他のブランドにも情熱を持って頑張ってくれている「人」たちはいます。だからこそ、もしも彼らに「自らの判断で自由にチャレンジしていける環境や立場」を与えることができたなら、きっと自発的に「よし、私たちの手で第二の丸亀を創ってやろう。いや、丸亀をしのぐほどのブランドにしてやろう」という気概をもった「人」が現れてくれるはず。そう期待しているんです。

つまり、私たちがブランドの分社化を進めていく最大の理由とは、アルバイトのかたも含めた「トリドールを支える人たち」をより大きく成長させたい、という願いからなんです。将来ビジョンでは数字によって店舗数や売上を示してはいるものの、真に目指しているのはそうした数字を達成し得るほどの優れた人材が集う企業にしたい、という希望です。人材開発企業としてトリドールが、さらに一段階上の成長ステージへ行くための戦術の1つが分社化なのだ、ということです。

たしかに「私たちは人材開発企業です」という発信を以前からしてきましたね。では分社化という方向性は、具体的にどういう人材開発の効果をもたらすと考えているのでしょう?

まず、大いに期待しているのは「成長性を認められれば、分社化を実現して、自分たちの責任のもとに大胆なチャレンジをしていける」という希望を、多くの社員やパートナーさんたちが抱いてくれる点です。従来の飲食業では限定的なキャリアパスしかなかったはずです。つまり「出世の道」には上限があり、「事業を自ら動かせる立場への昇格など、現場の人間には手に入らない」という暗黙知が悪い意味で定着してきたように思います。私たちとしては「少なくともトリドールは違う。すべての人にチャンスの扉は開かれている(or チャンスをつかむ機会が与えられている)んだ」というメッセージを、今まで以上にわかりやすく伝えたい。そう考えています。最初に分社化をする丸亀製麺やヤマキの人たちが、そのお手本を示してくれることにも期待しています。そうして多くの人たちが向上心と当事者意識を抱くようになるだけでも、会社全体が進化し、次々に素晴らしいリーダーが登場してくると考えています。

ただし、「そうはいっても、リーダーシップを発揮したことがないし……」という戸惑いを持つ者も少なくないでしょうね。私自身、役員に昇格した時「役員の仕事って何なの? 何をすればいいかわからない」という心境になりました。でも、だからこそ言います。「そうやって、自分にはわからないことが何なのかわかっただけでも成長なのだ」と。「わかりたい」という熱意さえ湧いてくれば、周りの人に「これを教えてください」と素直に言えるようになります。「わからなくても、とにかく挑戦してみよう」という気持ちがあれば、仮に失敗をしたとしても、そこから学んでいくことができます。実際、私も幾度も失敗を重ねながら「わからなかったこと」を減らしていきました。もちろん、向上心を得た人たちをサポートする仕組みは、これからどんどん拡充していく予定ですが、まずはこの会社が打ち出した新しい方針の、真の意味と意義と期待値を理解してくれるプレイヤーが登場してくれて、彼らが身をもって見本を示してくれることが大きな変化につながると思っているんです。

国内戦略と海外戦略とがシンクロし、相乗効果を出した時、トリドールはさらに成長する

新規ブランドを立ちあげていく面についてはどう考えていますか?

これまで通り、トリドールの基本理念、サービスおよび味に対するこだわり等に共感してくれるところがあれば、M&Aを通じてグループ傘下に入っていただこうと考えています。この点については海外戦略と方針は一緒です。ただし、分社化のところでもお話した通り、今後参画してくれる企業・ブランドに対しても既存の当社ブランド同様、「将来に向けての成長性」「お客様に喜んでいただく姿勢」の有無について、今まで以上のこだわりを持つようになることは間違いありません。

一方で、国内戦略と海外戦略が連携することで人材育成に新しいチャンスを生み出せたら良いな、と考えてもいます。丸亀製麺がそうだったように、日本国内で育ったブランドには海外進出というチャンスが生まれます。そういうフェーズに入ることさえできれば、また新しい挑戦ができます。海外の多くは、日本以上に飲食業に携わる人の収入は高くありませんから、日本のトリドールから海外店舗に人が出向くとなれば「高い給料をもらっているだけの付加価値」が問われるはずです。それでも「グローバル市場からも期待される人材になりたい」という人が現れてくれれば、国内人材の海外での成長という道筋も今まで以上に大きくなるに違いありません。

実際に日本の丸亀のお店で外国籍のメンバーが働くという逆パターンの好事例が生まれてもいるんです。彼らは、自ら望んで「海外で得た高い知識とスキルを活かし日本の店舗で働いて、更なる接客等のノウハウを吸収して持ち帰りたい」と言ってくれています。今後はこういう事例が増え、逆に海外で貴重な経験を得た人材が国内に戻ってきて新しい価値を吹き込むような事例が増えていくような環境を作り上げていきたいと思います。だからこそ、国内戦略と海外戦略の双方で大胆な施策を同時進行しているわけです。

すべてはトリドールが国境や価値観を超え、立場や肩書きを超えて、多様な人材が集う場になっていき、本人の意志次第で自由に人材が育つ場にしていきたい、というビジョンがベースにあります。そうしてリーダーや経営メンバーを輩出しながら、国内外を問わずブランドが自立していく状況を生み出すことで、壮大な目標値を掲げた将来ビジョンも達成できる。そう確信しています。

画像1: トリドールが国内市場でのブレークスルーを目指して繰り出す 「次なる一手」とは?

インタビュー/執筆森川 直樹

ライター/ 立教大学卒業後、フジテレビ系列企業に入社。イベント制作、広告企画、番組企画を担当した後、講談社グループでの雑誌編集を経て独立。以来、フリーライター/エディターとして活動。多様なカテゴリーで企画構成、編集、取材執筆を行っている。主にビジネス系メディアをフィールドとし、企業経営陣、コンサルティングファーム、IT企業、ファンド企業、ベンチャー企業の取材記事、広告等を多数手がけている。

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画像2: トリドールが国内市場でのブレークスルーを目指して繰り出す 「次なる一手」とは?

編集古里 栞

編集局編集長/ 2013年、大学卒業後化粧品会社へ入社。ビューティーアドバイザーとして新宿某百貨店にて勤務。トリドールへは2016年に入社し、大卒採用に3年半従事。その後組織戦略課へ異動し、ブランディング強化策として本メディアを立ち上げる。メディア視点で組織を強化し、より強固なブランドにすることを目指す。

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